関東の半導体製造装置メーカー(A社)のM&Aを仲介させていただいたときのお話しです。
A社の社長は大手電機メーカーを退職後、会社を立ち上げられ、創業30年、70歳を期にハッピーリタイヤされました。
A社は半導体関連の事業を行っているため、シリコンサイクルといわれる業界の好不況の波に飲み込まれやすいのですが、先見性もあり、うまく製造装置の種類を変えてこの3年は安定した売上と利益を確保していました。
しかし、本格的にM&Aをスタートした前期の上半期は、受注はあったものの納期までに3~6ヶ月あったため、約5,000万円の経常損失になりました。下半期の売上計上は順調であったため、最終的には約1.7億円の経常利益となり、過去最高益で株式譲渡ができました。
今回の買い手は、上場会社グループの投資会社(ファンド)だったのですが、私もファンドと交渉するのは初めての経験でした。読者の皆さんは、ファンドに対して、いいイメージを持っていないのではないでしょうか?ファンドは会社を転売することが目的なので、私も最初はいいイメージを持っていませんでした。しかし、ファンドのことが分かるにつれて、今までの考えを変えることができました。
M&Aが成立することで、売り手企業は存続し発展する可能性が高まるわけですが、買い手が一般事業会社の場合とファンドの場合で、次のような違いがあると思います。
(一般事業会社の場合)
○一旦買った会社を売却することはほとんどない
○社内の人を売り手へ送り込む
○M&Aに慣れていない
(ファンドの場合)
○将来、買収した会社を転売(上場を含む)することが目的
○(情報がオープンになるため)他社から買収の依頼を受けやすくなる
○外部からいい人材を探してくる
○業務内容が分からないので、あまり口出ししない(できない)
○M&Aに慣れている
○(厳しい投資基準を経て、買収されているため)金融機関の評価が高まる
一般事業会社が、買収を行った場合、買い手から送り込まれた人が、売り手の従業員や役員と相性が悪く、能力面でも問題がある場合、おそらく、その買収は失敗します。
売り手の業績がどんどん悪くなってきても何ら追加対策ができないことも多く、両社にとって不幸になる場合があります。
一方、ファンドの場合は、社外からいい人材を見つけてくるため、買収後、売り手の人間との問題が出始めれば、早期に対策が施される場合が多いように思います。
つまり、ファンドが買い手になる意義は、会社が長期にわたって存続し発展するために短期間(通常3~5年)に企業価値を高め、最終的な買い手にバトンタッチするための準備作業をする点にあると思います。つまり、会社に営業が足りなければ、営業マンを補強し、管理者が育っていなければ管理者を補強し、資金面で心配があれば資金調達を手伝うという役割があります。
ファンドの悪い点は、責任を取らない体質であるといえると思います。これは、ファンドが売り手になっても買い手になっても同じことですが、ファンドが作成するM&A契約書案はビックリするほど無責任な内容になっていることがあります。これは、ファンドはプロとして自らを守っているためですが、もし、ファンドと契約する場合は、これに対抗するために、こちらもアドバイザーを入れてフェアな契約になるようにしてください。