2014年に90年以上の歴史を持つ会社(以前、繊維メーカーでしたが、現在は不動産のみ所有)のM&Aが成約しました。実質は不動産売買と同じですが、売り手の手取額が大きくなるメリットが大きいため不動産所有会社の株式譲渡することを不動産M&Aといいます。
2015年は、世界的にM&Aの件数も売買金額も過去最高ぐらい大きい年でしたが、私も不動産M&Aの売り相談を6件受けましたので、これはちょっとした不動産M&Aブーム到来かな?という気がしました。
2016年も2件の不動産M&Aが成約予定です。
因みに2016年は、スタートから3ヶ月間で介護関係の売り相談をすでに6件受けましたので、ちょっとした介護案件ブーム到来かもしれません。
歴史の古い会社が不動産を売却して借入金を返済しようとする際、不動産の簿価が低いため、多額の不動産売却益が発生してしまうケースがあります。過去の繰越欠損金が多額にあり、不動産売却益と相殺できる場合は問題ないのですが、そうでない場合は多額の法人税等が発生してしまいます。そこで、不動産を会社で所有し、その賃貸収入で成り立っている場合は、不動産売却後の清算時の株主の手取額と不動産M&A後の株主の手取額を比較した結果、不動産M&Aを選択するケースが増えてきています。
その背景には、次のようなことが考えられます。
(売り手側の判断)
○消費税や相続税が上がると地価が下落(=企業価値も下落)するため、その前に株式を換金しておきたい。
○相続等で株主が増えた結果、株主同士が疎遠になってきているため、意思疎通できる間に株式を換金しておきたい。
(買い手側の判断)
○消費税の増税前に早く土地を仕入れて早く建築をスタートし、建築コストに関する消費税負担を抑えたい。
○借入金付きで株式を取得する場合は、新たな資金調達が少額で済む。
2014年に成約した不動産M&Aの売り手企業は、そもそも繊維メーカーでしたが、徐々に事業を縮小した結果、その事業は止め、現在は工場跡地300坪を使って駐車場経営をしている状態でした。
年間の駐車料収入は、1,000万円ほどで増収の見込みはなく、株主13人の高齢化が進み、代表は83歳でした。
2013年に仲介した不動産M&Aも株主はたまたま同じ13人でした。
会社が所有する土地の相場は4億円ほどでしたが、簿価が約5,000万円なので、もし、不動産を売却すると不動産売却益が3.5億円となり、法人税等が1.4億円ほど発生する計算でした。これだと株主の手取りが少なくなるので、株主総会での話し合いの結果、「M&Aで譲渡したい。」ということになりました。
もし、不動産を売却した場合は、現預金しかない会社になりますが、不動産賃貸業を継続する気力がないため、会社を解散して残余財産を分配する可能性が高かったと思います。この案件のように残余財産が多額にある場合、持株割合の多い株主は、最高税率に近い税金が発生し、手取りが半減します。
よって、株主の手取額を大きくしようと考えると不動産M&Aが最良の選択となります。
ただし、買い手からすると不動産M&Aではなく、物件で購入した方が有利になるので、不動産M&Aの買い手を探すのは一苦労です。
この会社の企業評価は3.5億円ほどだったのですが、売り手の株主の中に地価について高値覚えしている人が数名(こういう方は、大抵声が大きい)いたこともあり、売却希望金額は5億円!とかなり高いことを言っていました。私はこの金額では買い手はいないと思ったので、世間の相場を売り手に理解していただき、売却希望金額を下げていただくために入札方式で買い手候補に買収希望金額を提示してもらうことにしました。
結局7社が買収希望金額を提示してくれたのですが、そのうち1社がなんと売り手の売却希望金額である5億円を提示してくれました。マンション業者の最高額は、3.8億円でしたが、5億円は考えられない高額な提示でした。
買い手はドクターでしたが、「老健施設を建てるのに探していた丁度良いサイズの土地であり、金額よりもスピードを優先する」ということで、高額な買収を決断してくれました。
この売り手の株主は、全員高齢で誰もメールができなかったため、郵送とFAXで何度も契約書等の説明をするのに時間が掛かりましたが、株主が多いので意見調整も大変でした。
売り手とM&A仲介者は運命共同体なので、通常、売り手はM&A仲介者のアドバイスを聞いてくれるのですが、今回はなかなか私の言うことを聞いてくれず、知ったかぶりをする手強い株主がいたので、疲れてしまいました(>_<)
最終的にはおおらかな買い手のおかげで成約しましたが、この買い手の事業が成功することを応援したいと思います。