M&Aの売買代金については、通常、○億○千万円というように千万円単位または百万円単位の切りのいい数字にすることが多く、売り手も通帳で確認しやすくなります。
数年前に成約した不動産M&A(賃貸不動産だけを所有する会社の売買)もこのように○億○千万円という金額で売買が成立しましたので、その金額が売り手の銀行口座に振り込まれました。
この契約では、売り手の株主13人のうち3人が、会社所有不動産を借りて自宅として住んでいたため、その3人がM&A後に自宅不動産(3件とも1千数百万円)を買い取ることになりました。
その決済が行われた際、売り手の2人の株主が振込手数料を差し引いて不動産購入代金を買い手に振り込みました。
振込手数料は何百円程度のことなので金額的には大したことはないのですが、大きな取引の決済で振込手数料を差し引いて振り込んできたセコイ考えに対して、買い手社長は怒って、「当社は振込手数料を差し引かずに買収金額を振り込んでいる。一旦入金された金額を全額返金するので、再度、契約書に記載された金額を振り込んでくれ」ということになりました。金額的には振込手数料分だけを振り込めばOKなのですが、「そういう問題ではなく気持ちの問題だ」ということで、2人の株主には再度、振込手数料を差し引かずに不動産購入代金を振り込んでいただきました。
そのため、所有権移転登記の準備をしていた司法書士も手続きが数日遅れてしまいました。
買い手社長は、買収金額も売り手の役員に支払う役員退職慰労金や顧問料についても振込手数料を差し引かず、M&Aの契約書に記載された金額をそのまま振り込んでいるので、怒った気持ちも分かります。ただし、一旦振り込まれた金額を返金して再度振込んでくれというのは、やりすぎです。しかし、M&Aの契約上、売り手の株主13人の同意を得るためにいくつか売り手に有利な条件を買い手社長に了解してもらった経緯があるので、今回は買い手社長の納得いくようにさせていただきました。
工務店をしている買い手社長は、おもしろく誠実な方ですが、以前も振込手数料を差し引いて振り込んできたお客さんに対して、今回と同じように「振込金額を一旦返金するので、振込手数料を差し引かずに再度全額を振り込んでくれ」と要求したところ、そのお客さんが振込手数料だけ振り込んできたので、その振込手数料を同額の振込手数料を支払って返金したことがあったそうです。するとそのお客さんも負けずに再度振込手数料だけを振り込んできたので、何度か振込手数料分の金額のやり取りがあったそうです。最後にお客さんは根負けしたとのことです(^o^)。
冷静に考えたら無駄なエネルギーを使い、子供のケンカのようなことをしているのですが、この工務店の社長が言いたいのは、「金額の問題ではなく、気持ちの問題だ」ということで、一本筋が通っているともいえます。
弊社のM&A仲介手数料についてもごく稀に振込手数料を差し引いて振り込んでくる方がいらっしゃいますが、なんか器の小ささを感じて残念な気持ちになります。
通常の継続的な商取引で、振込手数料を差し引くのを慣習にしている会社がありますが、
本来相手の同意なしに勝手に振込手数料を差し引いてはいけません。M&Aや不動産取引のように1回だけの取引の場合も振込手数料を差し引いてはいけません。
M&A後にちょっとしたトラブルが発生した場合、売り手と買い手の信頼関係ができており、両者が誠実に対応すれば、大きな問題に発展するケースはほとんどありません。
ハッピーM&Aのためにも、何百円の振込手数料が原因で、信頼関係が壊れないようにしましょう。