2016年は、久しぶりに病院のM&Aを仲介しました。前回は250床ほどの精神病院でしたが、今回は60床の整形外科です。といっても現在は昨年発生した水害の影響で、病棟を閉鎖しており、外来のみの営業です。
この案件は、売り手が病院の理事長で、買い手が同じ病院に10年勤務する院長です。
理事長の長女は医師ですが、親の病院を継がず、医師の夫と一緒に関東でクリニックを開業しています。
当初、理事長は外部の介護事業者へ病院を譲渡しようとしましたが、院長がストップを掛けて、「自分が病院を買いたい」と言ったため、M&Aの交渉がスタートしました。
半年ほど前に一旦M&Aが成約直前までいったのですが、その時の合意金額は4.5億円(うち役員退職金が3.8億円)でした。
この時、理事長や理事長夫人はこの金額を安いと思っており、イライラしていました。それが嫌になった買い手の院長は交渉中止を宣言しました。
一般的にこういう状態になるとそこでM&A交渉は終わりなので、私もこれで終わったかなと思っていました。ところが、半年ほど経って院長が「もう一度交渉していただきたい。」と言ってきました。
そのきっかけは、以前入院していた患者が自宅で亡くなったことです。近隣住民や病院の職員からも病棟再開の要望が大きくなってきて、院長に自分が病棟を再開しないといけないという使命感が芽生えてきました。
M&Aの交渉を再スタートする際は、一般的に前回の合意金額である4.5億円を基準に交渉しますが、今年の梅雨シーズンに病院の雨漏りによるカビが発生し、臭いも発生している状態だったので、建物の大規模修繕費用を考慮する必要がありました。院長が業者に屋上防水や最低限必要な医療機器の更新費用を見積もったところ約1億円でした。
そこで、院長は、買収後の採算を考えて買収希望金額を3.5億円としました。この金額では、売り手がNOという可能性が高かったのですが、院長は、「買収できなければ、それでもいい。将来、自分でクリニックを開業する。」と言われました。
私は、断られるのを覚悟で、売り手に買収希望金額は3.5億円ということとその根拠を伝えましたが、予想通り売り手は納得しませんでした。
3.5億円というのは、譲渡するより、病院を清算すると手取りが多いという金額で、その旨も理事長へお話ししました。
売り手は、「3.5億円はあり得ない」ということで怒っており、病院の清算を考えはじめました。
私は、売り手に、「買収後の採算を考えたら買い手は、この金額が妥当だと思っています。本来、病院は個人のものではなく、地域を支える重要な役割を担っているので、単純に個人の手取りだけを考えるのではなくて、病院を閉鎖することによる地域住民へのダメージを考えてご決断ください。」と説明しました。
売り手と買い手の希望金額が1億円違う場合は、そこで交渉がストップすることがほとんどですが、今回は、売り手と買い手の双方が5,000万円ずつ歩み寄り、4億円(うち役員退職金が3.6億円)で合意できました。
売り手の理事長と買い手の院長は、毎日病院で顔を合わせる間柄なので、「もしM&Aが決裂してもお互い仲良くやっていきましょう」と言っていましたが、内心は複雑でお互いストレスが貯まっていました。
結果的に合意できたことで、両者とも喜んでくれました。
今後は、少しずつ建物のリフォームを行い、院長が理事長として病院経営に慣れてきた段階で、大規模修繕をすることをアドバイスしています。
築40年の老朽化した病院がきれいになって、職員や患者が喜ぶのを私も楽しみにしています(*^_^*)